足病変治療に携わる中で「もう少し早く見つけて、治療ができていれば」と
患者さんの歩行を守りきれなかった経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
LEAD・フレイル研究班は、そうした思いや経験を持つ医師らが集まり、下肢虚血と身体機能の低下の関連について研究を始めています。
LEAD・フレイル研究は、日本フットケア・足病医学会と、医療法人社団 恵智会との共同研究です。
ABI正常未満の下肢動脈疾患(LEAD)とフレイルについて、身体機能低下への影響や関連等を調査する5年間の観察研究で、640名の方に、2日間もしくは3日間に分けて血流や筋肉、歩行、身体機能に関する測定を、5年にわたってお受けいただきます。
ぜひ、該当患者さんへのLEAD・フレイル研究のご紹介にご協力をお願いいたします。
日本フットケア・足病医学会 理事長
神戸大学大学院医学研究科 形成外科学
教授
寺師 浩人 先生
1986年大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業後、大分医科大学附属病院 皮膚科形成外科診療班 研修医。その後、兵庫県立こども病院形成外科、大分医科大学附属病院皮膚科形成外科診療班、健和会大手町病院形成外科、米ミシガン大学医学部形成外科Visiting Research Investigatorなどを経て、2012年より神戸大学大学院医学研究科 教授。2019年に日本フットケア・足病医学会 理事長に就任。
日本フットケア・足病医学会では、足病医学の普及・向上を目指して、多岐にわたる取り組みを行っています。そのプロジェクトの1つに“Translational research”があります。日本語で「橋渡し研究」と呼びますが、基礎研究の成果の中から有望な知見を選び、医薬品や医療機器開発に要する臨床研究に至るまでの工程を一体的に捉えた開発戦略を策定することで、効率的かつ効果的に医療としての実用化につなげることを目的としたプロジェクトです。そして、そのプロジェクトの一環として立ち上げたのが、この度実施する「LEAD・フレイル研究」です。
私が所属する神戸大学医学部附属病院の形成外科では、約20年前から足の創傷外来を始めました。その初診患者さんの約4分の1は、すでに歩行機能が障害または消失しており、その段階で治療介入を行っても歩行機能の回復は困難なケースが多くあります。したがって、足の健康を保つためには傷を治すことだけでなく、「未病」段階へのアプローチが重要だと考えています。例えば動脈硬化から発生する末梢動脈疾患の一つである下肢動脈疾患(lower extremity artery disease:LEAD)の予防もその1つです。また、我が国は高齢社会を迎え「健康寿命」をいかに延ばすか、高齢者の虚弱状態(フレイル)を回避するかが課題となっています。フレイルでは、筋力低下や身体機能低下(歩行速度の低下)などがみられますが、我々はこれらの機能低下が加速する背景には、単に加齢だけでなく、内部障害であるLEADの病態が少なからず関与しているのではないかと考えています。
しかし、我が国では「LEADとフレイルの関連性」はあまり広まっておらず、まだ十分な解明に至っていません。そこで「LEAD・フレイル研究」では、大規模観察研究として下肢の血管や血流の状態、歩行機能などをあらゆる角度から測定し、LEADと身体・歩行機能の経時的変化を5年間にわたって追跡します。この研究から得られるビッグデータを紐解き、活用することで、足と歩行を守るために必要な日常生活での予防策、歩行機能の低下リスクがある方への早期介入方法を見出すことが可能になります。こうした方法が確立されれば、国民のフットケアや足に対する関心や意識は高まり、将来歩行機能を長く維持できる高齢者が増えると考えています。
動脈硬化の進行リスクの高い患者さんを診察されている循環器内科、糖尿病内科、透析施設、プライマリケアに携わる先生方には、ぜひ「LEAD・フレイル研究」への被験者紹介、ビッグデータの構築にご協力いただきたいと思います。
研究代表者
旭川医科大学外科学講座
血管・呼吸・腫瘍病態外科学分野
教授
東 信良 先生
1985年旭川医科大学医学部卒業後、旭川医科大学第一外科に入局。その後、米国Yale大学血管外科 研究留学、旭川医科大学第一外科 講師などを経て、2012年より旭川医科大学 外科学講座 循環・呼吸・腫瘍病態外科学分野 教授。2019年より旭川医科大学病院 副病院長兼任。
私は、血管外科医として、下肢動脈疾患(lower extremity artery disease:LEAD)による下肢切断や虚血肢に至った患者さんの治療に長年携わってきましたが、そうした患者さんに向き合うたびに思うのは、より早いタイミングで治療介入できていれば、歩行可能な脚を残せたのではないかということです。
LEADは、間欠性跛行症状や下肢の安静時疼痛がある方、軽症で予後も比較的良い無症候の方、無症候であっても突然重症化に至る予後不良な方など様々です。過去に実施した多施設臨床研究(SPINACH Study,2017)では包括的高度慢性下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia:CLTI)を発症した症例の約半数は、過去に間欠性跛行の既往がなく突然重症化に至る「潜在的重症下肢虚血(subclinical critical limb ischemia:sCLI)」であったことがわかりました。しかし、治療を必要としない無症候性LEADのごく一部に将来CLTIに繋がるsCLIが混在していることがわかっても、その選別方法が確立しておらず、早期発見や予防治療の手立てがないのが現状です。一方、健康長寿を目指している日本が課題としているフレイル(高齢者の虚弱状態)の中には、恐らくかなりの確率で血流が悪化している方が含まれていると推測され、血流障害・筋力低下・身体活動量低下の悪循環が起きていると考えています。日本全体においてLEADという疾患の認知度を高めるとともに、LEADの予防や早期発見により歩行を守り、一人でも多くの方を助けたいとの思いから、我々は「LEAD・フレイル研究」を実施することにいたしました。
LEADとフレイルには、「下肢血流・筋機能・歩行動作」という3つの要素が密接に関連していると考えられますが、それらがどのように影響し合うのかは十分に分かっていません。そこで本研究では、前述した主に3つの要素を含む約20項目(一部の被験者には約25項目)の検査を行い5年間追跡します。ここで得られるデータは、下肢動脈硬化の指標であるABI値の異常とフレイル発症との関連性や、LEADの病態(間欠性跛行の有無)と身体機能低下との関連性、下肢の予後などを示す、これまでにない重要な基礎データになると考えています。本研究の成果を基盤に、将来LEADやフレイルに対して、薬物治療や運動・食事療法、あるいは再生医療など効果的な予防・早期介入方法を確立させることが可能になります。また、LEADによる血流障害および歩行障害がフレイルの契機になると示すことができれば、フレイル予防にも繋がると期待しています。
LEADが下肢の血管病であり全身病であることや下肢機能をいかに守るかをいろいろな診療科で共有することは、特に高齢社会において非常に重要だと考えています。この研究にご協力いただき、成果を共有することで「多診療科で守る」という文化ができてくると思いますので、本研究への被験者紹介にぜひご協力をよろしくお願いいたします。
窓口・ 研究実施場所 |
日本フットケア・足病医学会 臨床研究センター |
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住所 | 〒150-0011 東京都渋谷区東2-16-9 4階 |
電話 |
03-6427-3066 受付時間:10時〜17時 月~金(平日のみ) |