境界性パーソナリティ障害の患者さんの悩みは? 境界性パーソナリティ障害の患者さんの悩みは?
解説:市ヶ谷ひもろぎクリニック
精神科牛島定信先生

境界性パーソナリティ障害(BPD)を起こす背景には、どのような要因が考えられますか?

イラスト イラスト 患者さんが大人へと成長する過程で、親が子の成長を阻害していると考えられています。
1960~1990年頃までは、マイホーム主義、ニューファミリー、シングルマザーなどで表現される家族の中で父親の力が低下し 母親が子どもの前面に出てくる家族像が多くなりました。ところが21世紀になり、暴力的で支配的な父親とそれに耐えている母親、 あるいは妻がわがまま放題(モラハラ妻)で父親は小さくなっている家族像が多くなりました。 そのような家庭では、子どもが親同士の葛藤に巻き込まれやすく、子どもの成長に伴って生じる親子間の世代間境界が形成され難くなっているように思います。 昔であれば、夫婦喧嘩するにしても、子どもの前ではしないのが当たり前でしたが、最近では子どもを巻き込んだ夫婦喧嘩を見掛けるのです。 このようにして虐待絡みのBPDが増えてきました。親も子も大人になることが非常に難しくなっているというのが、種々の問題の根底にあるといってよいでしょう。 それだけに、扱いが非常に難しくなっていると言えます。

そうした時代的変化を基にして、以前は10代から20代前半のケースが多かったのが、最近では30代半ばから40歳前後の女性の受診が増えています。 大学を卒業し、一度社会に出たものの、年齢が進むと結婚の想いが生じて婚活を通じて結婚したまではよかったけれど、育児に入った途端にバランスを壊すというものです。 その過程で、かつて思春期は24歳になると終わって大人になると言われていましたが、最近では30代、40代になっても内面的に思春期の心理的問題が続いていることが多いと思います。 それに関連しているのでしょうか、BPD患者さんもまた、以前は高校生や大学生が多かったのですが、最近では30代、40代になって受診するケースも増えています。

最近の境界性パーソナリティ障害(BPD)患者さんの特徴について教えてください

イラスト イラスト 1970~1980年頃は、テストの点が悪かった、希望の高校に合格できなかったなど、プライドの傷つきから不登校になる患者さんが多かったのに対し、 最近では学校で現実にいじめられて、不登校になるケースが多くなりました。このことは、大人社会に入ってもいじめられ、 ひきこもるようなケースが多いように見えます。この背後にあるのは、両親を2階に上げて、きょうだいで親批判をするといった 幼稚園から小学生時代に生じる親子間の世代間境界が形成され難いことに起因するように思います。そのため、大人とは何者なのか という観念ができない人が増えている社会に適応できずに引きこもって、家族に当たるというような患者さんが多くいるのです。 通常、青年期の人間は「べき、べからず」で考え、大人になるにしたがって「ほどほどでいいだろう」と、ある意味ずる賢くなって いきます。しかし最近では、心が未成熟のまま大人になってしまい、悩んでいる人が多くいるように思います。

私の患者さんで、アルバイトがつらくて、家の中で暴れたり、リストカットしたりするようになってしまった方がいました。 母親が「この子は何も長続きした試しがない!」と言って、アルバイトを辞めることに猛反対していたのです。私はその母親とかなり 揉めましたが、本人にアルバイトを辞めさせました。そして、「無理なら辞めて、次に新しいものを見つければいい。それが大人だよ」と 伝えました。すると、彼女の気持ちがスッと治まったのです。こうした手助けが、「子どもの人格から大人の人格への橋渡し」となるのです。 嫌なアルバイトを無理やり続けるのが劣等生で、要領よく辞めるのが優等生ということだってあるのです。 学校も、毎日まじめに行くことだけが正解とは限りません。40歳過ぎてから大学に行く人だっているんですから。 「劣等生の自分は、もうどうにもならない」と思い込んでいる人たちに、さまざまな生き方があることを伝え、 気付いてもらうのが私たちの仕事です。「型にはまらないと生きられない」という考えが間違っているということに気付くことが大切なのです。

境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者さんは、どのような悩みをもっているのでしょうか?

「この先、どのように生きていけばよいのかわからない」という悩みが中心にあると言ってよいでしょう。 訴えとしては、抑うつ、無力感、希死念慮(死にたいと願う気持ち)、絶望感からくる自傷などの衝動行為です。 「不安感が強い」「衝動的になりやすい」という特徴があります。また、不安になって能力が落ちてくると驚くような 退行状態となり、「幼児化現象」が起きます。例えば、家の外で困ったことがあると、家に帰って母親に八つ当たりをして、 その後、自己嫌悪に陥り、「抑うつ」「無力感」、時には自殺のような「衝動的行動」に出てしまうなど。 このようなことをBPDではたびたび繰り返すので、患者さん自身もどうしたらよいのかわからず、悩まれていると思います。

患者さんとどのようにコミュニケーションを取られていますか?その際、気を付けていることがあれば教えてください

BPDの患者さんたちは、うれしい、腹が立つ、というような喜怒哀楽の経験に乏しい方が多いため、 「今、どんな気持ち?」と聞いてもわからないことがよくあります。ある大学生の患者さんは、「親と一緒にいると苦しくなる」と いうことで、時々1人になれる場所に行くのですが、今度は「1人でいると苦しい」となって、1週間と持ちません。 自分の感情がわからないため、どう対処したらよいのかわからないのです。これが「僕って心で思ったことをなかなか表現 できないんですよね」などと、自分の気持ちを語るようになってくると、ずいぶん変わってきます。診療では、患者さんが 「感じたこと」を事細かに聞き、意識させるようにします。これは、患者さんとのコミュニケーションにおいて非常に大切な部分 だと考えます。

また、非常に重要なのが母親の「自覚」です。大体が「とても支配的な母親」か「自分が巻き込まれるのを不安に思っている母親」です。 ですから、患者さんだけではなく、母親にも自身の問題を「自覚」してもらうことが大切です。

市ヶ谷ひもろぎクリニック名誉院長
牛島定信先生

九州大学医学部卒業、同大精神科医局、その後、福岡大学医学部教授、東京慈恵会医科大学教授、 東京女子大学教授、三田精神療法研究所所長、ほづみクリニック院長を経て、2019年より市ヶ谷ひもろぎクリニック名誉院長。

〈資格・所属学会〉 医学博士、日本精神分析学会(元理事長)、日本森田療法学会(元理事長)、日本サイコセラピー学会(元理事長)、 日本児童青年精神医学会(元理事長)、日本ADHD学会(元理事長) 〈著書〉 『思春期の対象関係論』、『境界例の臨床』、『対象関係論的精神療法』、『人格の病理と精神療法―精神分析、森田療法そして精神医学』、 『境界性パーソナリティ障害―日本版治療ガイドライン』(いずれも金剛出版)、『心の健康を求めて-現代家族の病理』(慶応義塾大学出版会)、 『図解やさしくわかるパーソナリティ障害』(ナツメ社)、『パーソナリティ障害とは何か』(講談社現代新書)など。

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